日程 | 2023年10月27日(金)
10:30-12:30 |
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オーガナイザー | 禾 晃和 (横浜市立大学)
岩崎 憲治 (筑波大学) |
近年、構造生物学では、生体内環境に近い複雑で巨大な生体分子複合体を構造解析するアプローチが試みられる中、一方において、化学の視点からの精密構造解析も重要なベクトルとして存在する。量子化学計算につながるようなクオリティの高い構造情報は、創薬において必要不可欠であり、そのような高分解能解析において結晶学は中心的な役割を担ってきた。さらに、ごく最近、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法においても、水素原子の座標が得られたサブオングストローム解析が実現し、高分解能解析に新たな選択肢が加わった。そして、もう一つ、創薬研究における構造解析で見逃してはならないのは、microEDの台頭である。有機化合物の構造解析や、X線によるデータ収集が困難な微小結晶の構造解析に対するアプローチとして、現在オペレーションの簡易化を目指して専門家による開発が進められている。これだけ構造解析が多様化し進展すると、どのような手法であれ、構造解析を行っただけでは、説明のつかない分子間相互作用メカニズムというのが登場してくる。その謎を調べるためには分子動力学計算などの計算化学的アプローチが重要になってくる。こうした「化学」の視点における研究を多角的に推し進めていく中で、創薬研究におけるヒット化合物からリード化合物への量産は可能になってくる。薬剤候補となる化合物の作用をin vitro実験とin vivo実験とで相関をとることが難しいからこそ、原子レベルからのボトムアップ的な解析データの量産と蓄積は重要である。本シンポジウムでは、このような創薬研究の流れの中で、各手法のエキスパートとして研究・開発をリードしている研究者に最先端の内容をご紹介いただく。
日程 | 2023年10月29日(日)
午前中 |
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オーガナイザー | 中迫 雅由 (慶應義塾大学)
高山 裕貴 (東北大学) |
本シンポジウムでは、マイクロメートル・サイズ試料の内部構造を、数~数十ナノメートル分解能で可視化できるコヒーレントX線回折イメージングを取り上げ、国内放射光施設で活躍している当該分野研究者による現状を紹介していただくとともに、その将来的展望について議論する。X線回折イメージング法の基礎的アイデアは、結晶構造解析に大きな貢献を成したセイヤーによって1960 年頃に提案され、21世紀に入って、高輝度放射光源を利用しながら、単粒子解析、タイコグラフィーやブラッグ回折イメージングなどに発展してきた。各講演者には、現在も発展を遂げつつあるX線回折イメージングの理論背景、先端的な実験や解析方法の概要とともに、SPring-8やSACLAで展開されている応用研究までを取り上げていただく。これにより、X線構造解析の新たな広がりについて学会員の理解を深めるとともに、当該分野への将来的参入をいざないたい。なお、東北放射光施設ナノテラスやSPring-8 II計画では、光源輝度が飛躍的に向上することから、本シンポジウムが、次世代放射光源における積極的なコヒーレント光利用の端緒になることも期待している。
日程 | 2023年10月29日(日)
午前中 |
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オーガナイザー | 村木 則文 (慶應義塾大学)
沼本 修孝 (東京医科歯科大学) |
蛋白質結晶学による構造決定はタンパク質の原子分解能構造解析の大半を担ってきた。しかし、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法の革新的発展にともなって構造生物学分野に変革が見え始め、さらに数年が経過した。放射光施設をはじめ国内のクライオ電子顕微鏡の拡充が進み、また顕微鏡学の専門家からの知見の共有も効果的に行われた結果、今日において蛋白質結晶学者がクライオ電子顕微鏡を利用することは日常になりつつある。このような大きな変革の時期を経た今、結晶学の専門家がクライオ電子顕微鏡を語る時期が来ていると考えた。本シンポジウムでは、最近クライオ電子顕微鏡解析に取り組んでいる蛋白質結晶学の専門家にご登壇いただき、結晶学者の視座から、クライオ電子顕微鏡に触れて感じたことや考えたことを語っていただく。特に、結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡解析のそれぞれの特徴を踏まえた相補的な利活用を見出していきたい。放射光施設の高度化による結晶構造解析の新たな展開も見据え、本シンポジウムが生物系結晶学の今後の展望について考える機会となれば幸いである。
日程 | 2023年10月29日(日)
午前中 |
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オーガナイザー | 島田 敏宏 (北海道大学) |
本シンポジウムでは、高圧を利用した新物質合成およびプロセス開発についての動向について気鋭の若手・中堅研究者を中心に6件の講演により現状を紹介していただく。高圧科学は地球深部物質との関わりが深いため、地球惑星科学の視点から高圧実験への導入講演が行われる。続く2件の発表で、地球深部への有機物沈み込みの観点から有機物質に高圧を印加した際の結晶構造変化や圧力誘起縮合反応に関する研究、そして機能性炭素材料・炭化物材料の開発に向けた有機・錯体結晶の高温高圧処理と第一原理シミュレーションに関する研究が紹介される。後半は機能性材料の探索について結晶学的知見も踏まえて3件の講演が行われる。14族窒化物の高圧合成とその周辺の最新動向、炭素を含むバリウムシアナミド系の蛍光材料、最後に幅広い化合物の高圧化学に関する中性子を用いた結晶学的研究の紹介である。
高圧を用いた物質合成の分野は幅広いが、本シンポジウムでは主にダイヤモンド以外の炭素及び14族という切り口を中心に、放射光や中性子の利用などを含む結晶学とのかかわりの深い講演を集めた。
日程 | 2023年10月29日(日)
午前中 |
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オーガナイザー | 古池 美彦 (分子科学研究所)
杉山 晴紀 (総合科学研究機構) |
多くの合成高分子、タンパク質分子、液晶分子などの特異な機能・性質は、分子自身が持つ高い構造自由度や構造の柔軟性に由来する。これらの柔らかい分子群のメカニズムを理解するためには、分子の構造(分子構造、立体構造、集合状態)を知る必要がある。柔らかい分子は高い構造自由度ゆえに(1)まず結晶化、分子を並べ規則的な三次元構造を形成すること自体が難しい。また、結晶化できたとしても構造の一部が乱れるなどして(2)高い結晶性の試料を作成することが難しいこともある。しかし、高い分解能を目指して分子の配列規則性に厳密さを求めると、分子の柔軟性に起因する機能が失われてしまったり、結晶格子中に特有の構造へと落ち着いてしまったりといったことが起こりうる。すなわち「柔らかい分子をそのまま可視化したい」という目標と「できるだけ高い分解能がほしい」という目標のあいだにはトレードオフの関係がある。
本シンポジウムでは、柔らかい分子の構造多型を捉えたり、柔らかい分子が構造変化する様を直接捉えたり、結晶そのものの柔軟性を評価したり、柔らかい分子が結晶格子内で特異な性質を示したりする研究例を紹介していただき、構成分子の“可塑性・柔軟性”と結晶の剛直性・規則性という相反する2つの要素とどう付き合い、柔らかい分子に対してX線結晶構造解析がいかに貢献できるかを考える。